仙丈ケ岳は、山梨県南アルプス市と長野県伊那市の間にある、標高3,000mを超える高山で、ゆったりした山容から「南アルプスの女王」と呼ばれている、日本百名山の一つです。高山植物も様々に咲いていて、花の百名山でもあります。
登山ルートに危険な箇所はほとんどなく、登りやすく日帰りも可能なため、アルプス入門の山としても人気があります。
ただし、登山口まではバスでしか行くことができないので、山行はバスの時間に思いっきり左右されます。
累積標高もぼちぼちあるので、初心者の方にはおススメできませんが、ある程度山に登り慣れてきて、次にアルプスのどこかの山を登りたい!という方には、ちょうどいい山だと思います。
こんな方におススメ!
- 初めて南アルプスの山を登ろうと思っている人
- 雄大なカールを楽しみたい人
- 夏山に咲く花々を楽しみたい人
仙丈ケ岳データ【北沢峠より周回ルート】
標高 | 3,033m | 累積標高 | 1,118m |
距離 | 8.8km | タイム | 06:41 |
難易度 | 中級 | 体力 | ★★★★☆(4) |
景色の良さ | ★★★★★(5) | おすすめ度 | ★★★★★(5) |
※ 難易度は初級(Lv1~3)~中級(Lv4~6)の間で分けています。
※ おススメ度は5段階で、ヤマリが登って楽しいと感じた山ほど星の数が多いです。
※ これらはあくまで、ヤマリの個人的主観に基づいたものです。
累積標高はすごい高い、というわけではありませんが、なにせ3000m超えの山ともなると空気が結構数くなるので、そこら辺の山より登るのが辛くなります。
景色の良さは想像です。
きっと…天気が良かったら!こうだったんだろうなって!!(涙)
おすすめ度も、天気が…(以下略)
登山ルート【北沢峠より周回ルート】
北沢峠から時計回りに登ります。
〇合目の標識があるので、それを目安に。
行きと帰りの道が合流するところが、五合目になります。
六号目からは見晴らしがよくなり、素晴らしい景色を楽しめます。
小仙丈ケ岳からは、なだらかな道も出てきますので息を整え、最後頑張って一登りで仙丈ケ岳です。

仙丈ケ岳 アクセス方法
車の場合
伊那IC → 高遠方面 → 国道152号 → 南アルプススーパー林道 → 南アルプス林道バス駐車場 → 北沢峠
仙丈ケ岳の登山口である北沢峠まで、マイカーで行くことはできません。
車の場合は、仙流荘の先にある南アルプス林道バス利用者駐車場(5日1,000円)に車を停めて、そこからバスに乗って北沢峠まで向かいます。
また、諏訪ICで下りて、国道152号から山間部を通ってくるルートもあります。高速代を節約したい方は、こちらでもいいと思います。道路の状況にもよりますが、時間的にはそこまで差があるわけではないです。
※注意すること
仙流荘から北沢峠まではバスで一時間弱かかります。
5月~11月の運行で、ハイシーズン(2023年だと7/20~8/31の平日、7/8~10/9の土休日)以外はバスの始発が8:05(登山口にたどり着くのは9時頃)、最終が16:00とあまり余裕がないので、日帰りする時は注意が必要です。(ハイシーズンなら、時間に余裕があります)
公共交通機関の場合
茅野駅(南アルプスジオライナー) → 仙流荘(南アルプス林道バス) → 北沢峠
東京から仙流荘まで行く場合は、茅野駅から南アルプス登山アクセスバス「南アルプスジオライナー」で行くのが、一番オーソドックスな方法になります。
7月、9月10月は運行していない日があるので、注意が必要です。
茅野までは、高速バスやJR中央特急あずさで行くのが一般的でしょう。
仙丈ケ岳 登山レポ
宿をチェックアウトし、コンビニで朝と昼ご飯を買い込んだヤマリたちが駐車場に着いたのは、朝7時過ぎだった。
「うわー、第一駐車場も結構車あるね~」
ヤマリが駐車場を見渡す。車に夜露がついているものも数台あるから、それらは前日から停めてあるものだろう。
第一駐車場が一杯な場合は、その後ろに見える第二駐車場に停めることになるが、そちらにも数台停まっていた。

二人は準備を終えてバス停に向かう。
バス乗り場の前にはリュックが置かれていて、ヤマリたちはそこの最後尾に並ぶと、みんなに倣ってリュックを置いた。
「あー、いい天気。朝からまぶしすぎ~」ヤマリが目を細めて天を仰ぐ。
「バス8時だっけ。ここ来るの早すぎない?」ボーノさんは生あくび。
「うーん…でもなんか、一時間くらい早く来るのがいいらしい。よくわかんないけど」
ヤマリも平日だしもう少し遅くても大丈夫だろうとは思っていたが、いろんな人の情報を見る限り、早めの方が良さそうなので、そうすることにした。
もう少し遅くても大丈夫そうなら、次回はそうすればいいのだ。(そして平日なら30分前でも大丈夫と思った。するしないは別として)
列に置かれているリュックは、ある程度使い込まれていたり、テント泊します~みたいなどっかり大きなものなど様々で、その多くがベテラン感に包まれたものだった。
「おお~。さすがアルプスの山となると、並んでるリュックからして違う」
ヤマリは興奮を抑えきれない様子でそれらを見てから、比べるように自分のブルーのリュックを見下ろした。
今回のヤマリの相棒は、オスプレーのシラス26だ。今となっては一つ昔の型ではあるが、ぱっと見、そこまで年季が入っているほどでもない。
しかしよく見ればプリント部分は剥げているし、サイドポケットのゴムはこれ以上伸びませ~んと言わんばかりに、だらしなくびろんと垂れていた。
「ショップのお姉さんが、リュックは使い込まれた方がカッコいいって言ってたけど…」
この、だるんだるんなのがカッコいいのだろうか…。

そうだ、今のうちにトイレに行っておこう~。とトイレに立つ。
外から見るより、中は全然綺麗なトイレだった。
戻ってきたら、小屋の前にずらりと待機列ができていた。
出発30分前になると、小屋が開いて切符が売られ始めるというから、そろそろその時間らしい。
列はのろのろと進んでいたが、係の人が「現金の方は奥の2台をご利用ください~」という声で、一気に流れがよくなった。
手前の1台がキャッシュレス対応で、奥の2台は現金専用だった。現金を持っていたヤマリはするっと奥の自販機に進んで難なく乗車券ゲット。有人の販売はしていなかった。
しかしここ、手荷物で+αのお金を取ってくる。このコースで18L以内のリュック持ってる人なんて、もちろん皆無だ。それなら最初から、全部含めたお金取ればいいのに…。膝の上に乗っけるんだから、18Lも25Lも変わらないと思うんだけど。

土日などは前もって並ばないと大変なことになりそうだけど、バスが来る前に行列はなくなっていた。
8時少し前から三台のバスが来て、乗客を乗せたバスが次々と出ていく。
ただ現地まで運んでくれるだけなのかと思ったら、道々で「あそこは○○といって~」と、観光案内もしてくれた。半分くらい、どこの何を指しているのかイマイチわかってなかったけど。
9時少し前に、北沢峠に到着。
トイレも山小屋もあるここで準備を整えたら、ようやく登山開始になる。
最終のバスは16時なので、7時間以内に登山を終えないと日帰りできなくなる。


「仙丈ケ岳まで240分って書いてあるぞ。行に4時間、帰りに3時間…で、休憩時間ないじゃんか」
ボーノさんがこれホントに行けるのか?と呟いている。
「多分大丈夫だと思うけど、無理そうだったら小仙丈ケ岳で引き返そう」
とはいえ、大体ヤマップのコースタイムより(今回のヤマップのコースタイムは6:41)も少し早く歩けているから、今回もそうだと仮定すれば、休憩含めても7時間以内には戻ってこられる…はず。
ちょっと心配なのは、標高が高く空気が薄くなるとバテやすくなったり、頭が痛くなったりするかもしれないことだ。
とにかく無理はしないで、今回は「撤退」という文字も少し念頭に入れつつ、登ることにした。
しばらくは木々の中を歩く。

若い人たちに道を譲りつつ、マイペースで行く。
「空気が薄いなー」とつぶやきつつ、立ち止まるボーノさん。
一方のヤマリも、昨日の酒と寝不足が微妙にたたっていて、大きなあくびをしていた。


「ここまでで一時間ちょっとだから…行けるんじゃね」
と、余裕を感じたボーノさんの顔に安堵が浮かぶ。
「まだ分かんないよー。油断禁物」
ヤマリはアクエリアスの経口保水液を口に含んだ眉を寄せた。アクエリアスとはいえ、経口保水液はあんまり美味しくない。


五合目到着。
半分来たー!という思いと、まだ半分しか来てなのか~って思うのは毎度のこと。
ここからも無心で歩くのみ。
しかし五合目ですでに標高は2,500mくらいある。
息を切らせて登っていると、ボーノさんが立ち止まり声を上げた。

「すごーい!何、あの山!」視線を追ったヤマリが歓喜の声を上げる。
山肌が白いのは、雪ではなく花崗岩だからだ。
やはり3,000m級の山々は、日ごろ登っている山と比べて迫力がある。存在感が半端ない。
そりゃあみんな、アルプスに登りたくなるよなーと、ヤマリはひそかに納得した。
五合目をスキルと、よじ登るようなところもちょこっと出てくる。

で、振り返ると、甲斐駒ヶ岳の雄姿を拝むことができる。
「カッコいいなぁ~。次はあそこ登ってみたい」
はしゃぐヤマリを完全にスルーして、ボーノさんは歩き去る。
またそんな大変そうな登山をするのか…俺は家で寝ていたい、と思っているに違いない。


六合目に到着。
ここから先は森林限界に近づいてきて、見晴らしもよくなってくる。


綺麗だな~と思う反面、ちょっと疲れてきたな~とも感じる。
この時の標高は2,800mくらいだから、息が切れやすい。
「ふーっ」と息を吐いて登り続けるも、足が重く感じる。

しかも風が結構強くなってきて、冷たい風が吹きあがって身体に容赦なく当たる。
「そういえば、前も寒くてこんなことあったなぁ。あれどこだっけ」
ボーノさんは、たまらずレインウェアと手袋を取り出して着込む。
「それは木曽駒ケ岳だねー。真っ白で何も見えなかったとこ」
ヤマリは既にソフトシェルを着ていたが、それでも少し寒いくらいだった。レインウェアもあるから、更に寒くなってきたら重ね着すればいい。
小仙丈ケ岳に向かって登る辺りが、一番体力的にきつかった。
3,000m級の山に登る前に、一回金峰山(東京から近くて標高2,599mある奥秩父の盟主)あたりにでも登って身体を慣らしておけばよかったか~とちらりと思ったが、後の祭りである。
頑張れーと自分に言い聞かせながら、背後の甲斐駒ヶ岳に元気をもらいながら、チェックポイントの小仙丈ケ岳に到着した。

2時間ちょっとでここまで来られたので、引き返さなくてもなんとか行けそうだ。
とはいえ、あんまり長く休めるほどの精神的余裕がまだないので、少し休憩して、仙丈ケ岳を目指す。

ここからは登り返しが少しあるが、稜線に沿って比較的緩やかな道が続く。
普段なら、左にカールを眺めながらの絶景…のはずだが。
「なんか天気悪いんですけど」とボーノさん。
最初はあんなに晴れていたのに、どこからかもくもくと湧いた雲が山頂に垂れこめてきた。
「ほんとだねぇ…」
ヤマリは空を見上げたが、どんよりした雲は広く空を覆っており、山頂に向かう一時間程度じゃ到底晴れそうになかった。
天気アプリはA判定だったのに、折角前泊してまで来たのに…。ヤマリは肩を落とす。
「まあ、雨が降らないだけいいか」
ヤマリほど気にしていないボーノさんは、そんなことをつぶやいていた。

「天気悪いなら、せめてライチョウくらいには会いたい~!」
ヤマリが騒いでいるが、仙丈ケ岳の女王様はそんなに優しくはないようだ。

山頂に近づくにつれ、ますます周囲が白くなっていき、最終的には白一色になった。
景色も何もあったものではなく、ただただ見渡す限りの白さ。
ひたすら白い。後日友達に見せたらあまりの白さに、Photoshop(画像加工ソフト)で切り抜いたの?と、言われたほどだ。

「真っ白すぎ!!」
ヤマリがぶんむくれながら山頂標識の写真を撮っている。
「飯にしようぜ、飯~」
ボーノさんは山頂標識から少し離れたところで、バーナーを取り出し手早くお湯を沸かし始める。
買ってきたお弁当を食べるものの、ヤマリは寒すぎて震えながら食べていた。
ただボーノさんから渡された熱い味噌汁が、冷えた身体に染み渡るように美味しい。
「味噌汁最高ー」
もしかしたら今回の登山の感動ポイントは、甲斐駒ヶ岳と、この味噌汁だったかもしれない。
ご飯を食べ終え、山頂からの景色が全く望めないまま、残念な気持ちで山頂を後にする。
仙丈小屋までの道で、お花が何種類も色々と咲いていたが、テンション下がりっぱなしのヤマリは、カメラを構える気力もなかった。
というか帰りのバスの時間を気にしながらの行程なので、のんびり立ち止まって写真を撮るという、精神的なゆとりがあまりなかった。

仙丈小屋を過ぎて少し歩いたところに、水場を発見。
「おっ」
水場が大好きボーノさんは、さっそく近づいて飲めそうな水かどうかをチェックしていた。
飲めそうな感じだとわかると、ペットボトルの水を捨て詰め替える。
水はキンキンっに冷えていて、美味しい。

振り返って来た道を見てみたら、ずっぽりと山の上はガスに厚く厚く覆われていた。

ガスガスゾーンを抜けだしたら、たまにお日様がのぞくお天気に。
まぁ…山ってこんなもんだよねー。と、悟りの境地。
通り過ぎた馬の背ヒュッテでは、若者たちがここのごはん食べてみたいとか話をしている。

私たちももうすこし時間に余裕があったら、小屋でランチとか楽しめるんだろうな~。
ヤマリは仙丈小屋で、マルタバ・テロ―ルなるものを食してみたかったのだ。
馬の背ヒュッテを少し進むと、この先の道は、小川を何回か横切ることになる。

川を横切るのって、なんだか楽しい。
ただ歩いているのと違って、ちょっとしたアスレチックみたいな感じ。


小川をいくつか渡る辺りの道は緩やかで、五合目の大滝頭に合流する。
そこからは行きに通った道を戻ることになる。
この分だとバスの時間には余裕がある、と少し安心しながらも、五合目からはぼちぼち急になるので、ひーひー言いながら北沢峠に到着した。
バスはまだしばらく来ないので、
「喉乾いたから、ちょっと買ってくる~」
と、ヤマリは目の前の木漏れ日山荘の階段を上り始めた。
「元気だなぁ」
後ろから、もうこれ以上一段でも登りたくないような、ボーノさんの声がした。
最終16時より10分ほど前に臨時便が出たので、それに乗ってヤマリたちは仙流荘に到着。
汗を流すべく、少し離れたところにある「大芝の湯」に向かう途中、ボーノさんがバックミラーを見ながらつぶやいた。
「大きな虹が出てる」
「虹!?」
ヤマリが振り返ると、背後には大地から太~い虹がドーンと出ていた。
「こんなに大きな虹を見たの、久しぶりだな~!色もしっかり7色見える」
道路脇を見れば、カメラにでっかい虹を収めようとしている人がいた。
もしかしたら、今日の山は残念だったけど、またおいでと言われているのかもしれない。

「大芝の湯」では軽くご飯を食べ、つるつるのお湯を楽しみ、帰宅の途に就く。
「入館料500円って、安いよねー」
帰りの車の中で、ヤマリは一つ伸びをした。
「長野は安いところ多いよな。食べた醤油ラーメンも美味かったし、満足だ」
「あのチャーシュー、トロトロで美味しかったよね。でも私もゆず塩じゃなくて醤油にすればよかったなー。ゆず塩なのに細麺じゃなかったもん」
「ああいう店で、何種類も麺を用意してるわけないだろ」
「そだね~」
二人の乗った車は伊那ICに滑り込んでいく。
リベンジ確定の仙丈ケ岳と木曽駒ケ岳、そしてヤマリの登ってみたい山に甲斐駒ヶ岳が追加された。
その内また、伊那を訪れることになるだろう。
仙丈ケ岳 北沢峠周回ルートの感想
オフシーズンのバスの時刻表だと、行動時間が7時間という足枷がつくので、スピードハイクができる人はいいですが、普通の人だとこの時間以内に行って帰ってこられるか、の不安があると思います。
コースタイムより少し早く歩ける人なら大丈夫だと思いますが、ギリギリの人はバスの始発が早くなるオンシーズンを狙った方がいいでしょう。
コース的には危険な箇所はほとんどなくて、技術的なものを求められる箇所もありません。
ただ、本当に何といっても時間!です。
せめてあともう一時間早くバスを出してくれたら、チャレンジしやすくなると思うんですけれどね。
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